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窯焚き

 11月26日(金)
 私の父は42歳の厄年でこの世を去った。私は12歳だった。母は34歳で三人の子を持つ未亡人となった。私は今34歳だ。母は若くしてあくせく働く父となった。42という年に恐怖を覚え、母が42になる年を越した二十歳の私は、心の底から安堵した。
 父は心不全という突然死だった。良く考えてみれば過労死だったような気がする。これは私の勝手な想像なのだが。朝起きると父はだいたいいなかった。早くから仕事をしたり、今時分なら好きなきのこ採り。ナマズも取ったし、イナゴも取っていた。季節季節の楽しみをしたりしていた。農業もしていたし、仕事も体を使うガテン系だったので年中真っ黒だった。父は働き者だった。そんな父を私は追いかけていた。

 哲央を見ていると父とダブル事がある。朝起きると必ず哲央は仕事をしている。色は白いが働き者だ。私の恐怖が甦る。長く生きて欲しいと心から願っている。私の命をあげたいくらいだ。この人はどんなに仕事をすれば納得するのだろう。
 
 昨日から過酷な窯焚きに入った。3日間寝ずの日々。窯焚きをするほどに吹き出物が出、髪は白髪が増す。以前会った多治見工業高校で陶芸を教えている先生が言った。「小川くんの仕事は50人分の働きをしているねー」私は明確な数字を出して貰い成る程と思った。時に私は哲央の働き振りを宇宙人のようだと例えるが、超人的には変わりない。1日に講談を50席やったら気が狂ってしまう。過去に一晩で12席の講談をやった事があるが、へとへとだった。もう御免だとも思った。
 今まさに哲央はその超人的な窯焚きをしている。ほとんどの陶芸家がたくさんの焚き手を頼み、交代制で、呑んだり食べたり宴会をしながらやるそうだが、小川窯はとても神聖な窯焚きだ。たった1人で炎との勝負。
 さっきコーヒーを届けた。生存確認終了。
by hinihiniaji | 2004-11-27 01:05 | テツオウ


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